鬼の棲む街




ホールの中央は若い男女が揉み合うように踊っていて見てるだけなのに酔ってしまいそう

お腹に響く音楽と混ざり合う香水に強いお酒の匂いが加わって独特の雰囲気を作っている


シャンパンに口をつけながら観察を続けていると



「「「キャァァァァァ」」」
「「「尋様ぁ」」」
「「「抱いてぇ」」」



突然ホールで踊っていた女の子達が悲鳴を上げた

驚きでその子達の視線の先を追うように振り返る


「・・・っ」


そこには・・・


漆黒を纏う男性がドリンクカウンターに寄りかかっていた


・・・なに


その人は女の子からの歓声が聞こえているはずなのに
それに反応することもなく受け取ったビールを一気に飲み干すとクルリと振り返った


刹那


「・・・っ」


強い視線に囚われた


ゾクリと背筋を走る感覚は赤鬼と出会った時と似ている

しかし。決定的に違う

それは

あの人ほど空気は重くない・・・


依然視線を絡め取ったままのその人は

バーテンダーから耳打ちされると左手の薬指に口付けてから漸く視線を外した


「・・・フゥ」


身体中の力を抜くように深い息を吐き出した時には

彼は通路の突き当たりにある階段を上がっていた


「あそこは何があるの?」


「あ〜、中二階はVIPルーム」


「へぇ」


「あの人が双鬼の森本尋《もりもとじん》、愛龍会の幹部だよ」


「そ、うなんだ」


雰囲気があれだけ怖ければ一般人だとは思わないけれど


「赤鬼の右腕って言われてる人」



聞かされるまでもなく「確かに」と納得できる風格だった


「小雪と見つめ合ってたよね」


「え、あ、そう、かな?」


「ま、見つめ合ってたというか射抜かれたって感じだった」


紗香は鋭い







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