鬼の棲む街



それより気になるのは


「あの薬指のキスはなんだろう」


あの一瞬だけ愛おしい相手へ向けるような柔らかな表情をしていた


「あぁ、あれね。薬指の根元に刺青が入ってるの
これも女の子達の噂だけだから直接聞いた訳じゃないのよ?」


「刺青?」


「冷鬼のことを話したでしょ?」


「うん」


「その冷鬼の頭文字のLがスクリプト書体で描かれているらしいよ」


「そうなんだ」


「愛龍会の幹部だけらしいから。さっきの人と。あ、あの人って双子なんだけど」


「双子?」


「だから“双鬼”ね」


あの怖いのがもう一人いる。そう思うだけでまた背筋が寒くなった


「その双子と赤鬼の指に“L”が彫ってあるんじゃないかな」


「・・・」


三人の男性に刺青を入れさせる程の女の子を頭に思い浮かべてみるけれど

あの雰囲気を上回ると考えただけで紗香が教えてくれた後光の差す美人ではなくて大魔神しか出てこなかった



さっきの彼の登場で沸いたクラブも
あっという間に元の喧騒が戻っていて

喉の渇きを覚えてお代わりをするためにバーカウンターへ移動した


「同じもので良いかな?」


相変わらずの胡散臭い笑いに頷く

新しいグラスに注がれるロゼを見ていると


「良かったら名前、聞いても?」


一瞬、胡散臭い笑いが消えたその顔に


「小雪」


ウッカリ本名を告げていた


「可愛い名前だね〜。名は体を表すって言うけど本当だよね〜」


スッカリ元通りのバーテンダーに


「名前で呼ばないでね」


少し睨んでから片目を閉じれば


「・・・こりゃ手厳しい」


ホールドアップした手は直ぐ下され

片方はグラスを差し出して

もう片方は名刺?を挟んでいた





< 46 / 205 >

この作品をシェア

pagetop