鬼の棲む街
愛龍会


・・・最悪


中二階に上がってひとつ目のVIPルームに連れ込まれ

「どうぞ」と促されてソファに座わった途端やって来たのは漆黒を纏う彼

確か森本尋

「・・・」

並んだ双子の鬼と相対しただけで

文句を言ってやろうと思った私の口は開くことを諦めたように動かなくなった


・・・あぁ、神様


絶体絶命って使うのは“今”が最適じゃないですか?


逸らすことすら出来ない視線は馬鹿正直に双子を交互に映していて

ガチガチに力の入った肩の所為で座り心地の良いソファなのに背中をつけることさえできない

嫌な汗まで出てきそうになったところで


「失礼しま〜す」


突然開いた扉から緩い声のバーテンダーが入ってきた


「小雪ちゃんにピンドンと二人にはビールね〜」


彼はテーブルの上にサッと並べると引き止める間も無く身を翻して消えた


・・・ほんと最悪


どこがいけなかった?
此処へ来たところから思い浮かべようとしたら


「マスターとは知り合いなのか」


森本尋から声がかかった


「・・・・・・は?」


今のはバーテンダーでマスターじゃないわよね?

なんなの主語はどうしたのよ
そうは思っても、もちろん声には出せないわよ

だって命が惜しいんだもの


「尋、端折り過ぎだって」


対照的に茶髪に緩いウエーブが似合いの森本巧は
ハハハと笑ったあとで


「“喫茶あひ”のマスターとは知り合い?」


下で見たより柔らかな雰囲気を見せた


「・・・知り合い、というか命の恩人というか」


「え?命を助けられたの?」


「はい」


正確に言えば命まで大袈裟じゃないけど説明したくない


「へぇ、で?今夜は?偵察にでも来たの?」


この人の話の意図が見えなくて段々と苛立ちが芽生えてきた














< 48 / 205 >

この作品をシェア

pagetop