鬼の棲む街



そして・・・もう一人


(もしもし)

「父様、小雪です」

(終わったのか?)

「はい。ありがとうございました」

(GWにはまた迎えをやる)

「はい」


背筋を伸ばした通話を終えると父の登録を済ませて、お風呂に入るために立ち上がった

母と兄へは父が教えるだろう


元々、私の携帯電話の連絡先には家族と基、白しか登録が無かった


そこに杉田さんが加わって紗香・・・そして、紅太


両手の指にも足りないそれが私の世界


まさかそこから一番大切な白を消す日が来るとは思わなかった


短めに入浴を済ませてビールを片手にバルコニーへと出た

前より五階ほど高くなった部屋

その高さのお陰で更に開けた視界は眩いばかりの夜景も広げた


苦手な苦味を口に含みながら、あの三人を思い出す


細めのピルスナーグラスを持つ手

それに口付ける薄い唇

一気にあおる喉

南の街の鬼達は

全てが扇情的で綺麗だった


元々彼等とは住む世界が違う

訪れた時からカウントダウンが始まっている私と違って彼等は此処で生きていく身


たまたま関わってしまっただけ

もう二度とクラブDragonへは行かない


白を切ると決めた時に新しい携帯電話から紅太へはかけないとも決めていた


杉田さんにもアルバイトを断ってDragonへ行く前の生活に戻るだけ


三人へのサヨナラを込めて嫌いなビールを飲んでいる


「不味っ」


小さな瓶にして良かった


その瓶を月に向かって掲げる


「サヨナラ」


ツキと痛む胸に気づかないフリをしてリビングへと戻った












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