鬼の棲む街



「おはよ〜」



予告通り待っていてくれた紗香は会って早々にメッセージアプリのIDを聞いてきた


「小雪には沢山聞きたいこともあったから週末悶々としちゃったんだからね」


頬をプウと膨らませた顔が可愛い


クスクスと笑って誤魔化して大学までの学生の波に乗った




・・・




講義の合間にランチタイム
空きコマ・・・

一日かけて紗香に金曜日の中二階へ上がってから
日曜日に新しい携帯電話で紗香に連絡するまでのことを掻い摘んで話した

もちろん白との関係は説明出来ないから此方に来る時に別れた彼氏ということにした

終始口が閉じなかった紗香は


「ある意味、小雪は凄いよ」


よく分からない言葉で一連の話を終わらせてマンション前で手を振った


「さて」


一度部屋まで戻るのも億劫でコンシェルジュに荷物を預けて財布だけを持って出かけることにした


行き先はもちろん“喫茶あひ”


私の最後のリセットのために足を進めた

十分もかからずに着いたそこは相変わらずの気配のない店で

迷わず扉に手をかけると頭上で鈴が鳴った


「い、小雪ちゃんっ」


杉田さんの反応が毎回同じに思えるのは気の所為だろうか?

布巾で手を拭きながらカウンターから出て来ようとした杉田さんを手で止めて


「こんばんは」


真ん中の席に腰掛けた


「小雪ちゃん、大丈夫?平気?」


大丈夫と平気を使う杉田さんは明らかに私のことを心配している様子


「大丈夫ですし。平気ですよ?」


安心して欲しくて笑顔を作った


「土曜日の彼は、小雪ちゃんの彼氏?」


「彼氏じゃなくて同級生です」


「てことは遠路はるばるってこと?」


「あ〜、まぁそういうことになりますね」


「心配してたんだ。彼、結構強引だったでしょ?」


「あ〜、いつもあんな感じなので全然大丈夫です」


そう言ったものの真実は真逆だった

携帯電話は解約したし同じマンション内とはいえ引越しまでした

それを杉田さんに言うつもりはないけれど

少なくとも心がバラバラになりそうなほど傷ついていたのは確かだった










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