鬼の棲む街
双子に懐かれる



「杉田さん。あの・・・」


アルバイトを断ろうとしたタイミングでカランと背後の鈴が鳴った


「いらっしゃい」


杉田さんの視線がまた私の背後に移る

嫌な予感がして振り返れない私の頭上から


「これはこれは小雪ちゃん」


聞き覚えのある声が降ってきた


弾かれるように声の主を見上げればマリンの香りが近づいた


「尋」


「ヨォ」


ドサッと隣に腰を下ろした尋は「ビール」と注文して身体ごと私へ向いた


「じゃじゃ馬は注文しねぇのか」


挑発的な物言いに即座に反応する子供の私は
その瞳に張り合うように口を開いた


「じゃじゃ馬じゃないからっ!杉田さんコーヒーお願いします」


「は〜い」


杉田さんは私と尋のやり取りを楽しむように
「仲良いな、妬ける」と
視線を順番に動かして破顔した


「「違う」」


咄嗟に出した否定は尋とモロ被り


「ほら」


やっぱりと笑われた


変わらず私に向いた体勢のままジッと見つめてくる尋


「・・・なによ」


「別に」


「じゃあ席を戻しなさいよ」


「俺の席はこっち向き」


「フフ、あんたやっぱり馬鹿よね」


「あ゛?」


「ほら、凄んで誤魔化そうとして」


「んだと!」


「なに?キレやすいの?カルシウム不足?」


「な、っ・・・んな訳ねぇ」


急に勢いの萎んだ尋はなんだか年相応に見えて


「これだから最近のヤクザは嫌〜ね!ところ構わず喧嘩ふっかけて」


嫌味のひと言も言いたくなった


それなのに


「最近の大学生はヤクザに喧嘩ふっかけんのか?」


あくまでも形勢は同じのようで最後は取り合わないと言う選択をした










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