鬼の棲む街



「美味しい」


「ありがとう」


カウンター内のカップボードには杉田さんが厳選したカップが並んでいる


一つとして同じ物がないから拘りは強いのだろう


「お客様の雰囲気でカップを選ぶようにしてるよ」


そう言った杉田さんが私に選んでくれたのは薔薇の咲き誇るアンティークカップ


「私は薔薇?」


「小雪ちゃんは女王様にもなれる」


「フフ、嬉しい」


「歳を取ると正直になる」


美味しいコーヒーと杉田さんとのお喋りに緩む頬を一瞬で消し去るのはこの男


「俺が小雪に選ぶなら馬蹄形」


ほんとっ忌々しい

折角のコーヒーが不味くなるから
ここは我慢よ?我慢。

そう、完全無視

そう思った決意を揺らすのは間違いなくこの男


「なんだ?無視か、良い度胸じゃねぇか、じゃじゃ馬娘が」


「喧嘩売ってんの?」


「い〜や?」


そう言いながら煽ってくる表情はだらしなく緩んでいてなんだか可愛く見える


「私が尋に選ぶならストロー付きのプラスチックカップね」


「あ゛?」


「だってお子ちゃま尋ちゃ〜ん」


堪えきれずに吹き出してしまった

ついでのようにカウンターの中で杉田さんも盛大に笑っていて私の勝ちだと踏んだのに


「テメェ」


いきなり立ち上がった尋は


「ちょっと来い」


「キャ、え?・・・なにっ」


強く腕を引いて立たせると


「キャァ」


荷物みたいに軽々と私を肩に担いで店から出た




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