鬼の棲む街



ホックが外されたことで肌とブラにできた隙間から
滑り込んできた大きな手は

痛いほど固くした柔らかな膨らみを捉えて形を変える


「ぁぁあああ」


皮膚の表面に心臓が移ったみたいに意識が集中した





ただ・・・それだけ





それだけで





激しい閃光に包まれたように



頭の中まで真っ白になった







・・・






酷く身体が重い



それに



頭も鈍痛がする



なにより




泥のように眠ったのだろうか



目蓋が重い




それでも、ゆっくり時間をかけて



その重い目蓋をどうにかこじ開ければ



「・・・」



飛び込んできたのは見知らぬ部屋

けれども
不安な気持ちが生まれないのは
シーツに移る匂いの所為かもしれない



思い出したくもない場所から連れ出してくれたのは双子だった


だから


どちらかの家


そう思えたのは
なんとなく家に似た天井と扉を見たからで


ハッと思い出して身体に触れると何か着ていることに酷く安堵した


カチャ


視線の先の扉が少し開いて
そこから覗いたのは


「お目覚めかぁ、子猫ちゃん」


通常運転の巧だった


「・・・」


「怠い?」


「うん」


「医者にも診て貰ったし〜ほっぺの腫れ以外は大丈夫だったよ?」


ベッドサイドで腰を下ろした巧は


「ほっぺが腫れても美人だね〜」


緩く笑った


「どれくらい寝てたの?私」


「ん〜と。五時間くらい?」


「今は?」


「日付が変わった頃だよ」


「そっか」


「お腹は?」


「減ってない」


「どうせ今日は帰れないから良い子で寝ると良いよ」


帰りたいけど怠くて無理だ


泊まるのは不本意だけど今回の顛末を聞きたいから巧の言う通りにこのまま寝かせて貰おうと思う


「おやすみ」


頭を撫でる巧の手に反応しない身体にホッとして


ゆっくりと閉じる目蓋に身を委ねた









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