鬼の棲む街
側にいる意味



次に目が覚めた時には怠さと頭の鈍痛から解放されていた



ベッドから起き上がると履かされていたスウェットのズボンがストンと足元に落ちた

ダボダボで意味を成さないそれを脱いでワンピース並みに大きなTシャツ一枚で扉を開いた


・・・広い


私の住む階には三軒ある
それが最上階には二軒

広いリビングを眺めるとそれが実感できた


シンプルな部屋の隅に違和感のある仏壇
そっと近づいてみれば四人の家族写真が飾られていた

中学生くらいだろうか
今よりあどけない表情の双子とよく似たご両親

位牌が二つあるからご両親・・・
ごく自然にそこに座るとそっと手を合わせた

立ち上がって振り返ると大きなソファで眠る巧が見えて

近づいて蹲み込む

踏み込んで来たり
かと思えば、こうやって配慮も欠かさない


あどけない表情で眠っているけれど


このまま寝かせてあげようなんて優しさは無い


ギュッと鼻を掴んでやろうと伸ばした手は
その手前でバシッと捕らえられた


「おはようはキスじゃなきゃ受け付けないぜぇ?」


寝起きなのに破壊力抜群な笑顔に


「それは残念」


同じような軽口になる


「気分はど〜かな?」


身体を起こしながら私を見る巧は


「もう平気」


立ち上がった私を見て口を開けた


「な、は、え?」


そんなに驚くことだろうか
記憶が確かなら色々“した”はず


「朝から誘ってんのかぁ」


変わらない軽口が動揺を隠せなくてブレている

それでも
あれは交通事故みたいなものだと封印するつもり


「珍しくないでしょ」


「い〜や、珍しいぜ」


巧はクスクスと笑った


巧が動くたびスパイシーな香りが立って
昨日の記憶が蘇りそうになる


「朝ごはん、作りなさいよっ」


それを断ち切るように態と強めに言って離れた


「子猫ちゃんは腹ペコだとす〜ぐ不機嫌になっちゃうねぇ」


掴めない緩い巧が今は居心地良かった







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