鬼の棲む街


「そろそろ帰るわね」


そう言って立ち上がった私に


「送ってく」


尋も立ち上がるとテーブル上の車の鍵を手に取った

私のことを知り尽くしている冷鬼から聞かされていないのだろうか

そんな疑問は私の年齢を知らなかったことを思い出して納得する


なんでもかんでも情報を流す訳じゃないんだろう


ワンピースを貰ったからじゃないけれど冷鬼の凄さを感じた


「車なんて乗らなくても帰れるわよ」


「危ねぇから送る」


「歩きで良いわよ」


「遠慮せずに送られろよ」


くだらない尋とのやり取りを笑いながら見ている巧をひと睨みして


「私、此処に住んでんのよ」


不本意だけどバラしてみた


「は?」


笑えるほどの尋の鳩豆顔に


スタスタと双子を放って玄関を目指す


「早く送りなさいよっ」


ヒールを履きながら笑っていると


「ちょ、待てよっ」


「子猫ちゃん、俺も送るぜ?」


焦った双子が追いついてきた


「なんで黙ってた」


尋はほんと俺様


「子猫ちゃんは秘密が多いなぁ」


やっぱり巧の目は笑ってなくて


「だって聞かなかったじゃない」


負ける訳にはいかないとバッサリ言ってやった


「「なっ」」


「フン」


エレベーターに乗り込んでモニターに表示された階に双子は息を飲んだ


「五階下かぁ」


「誘わないわよ、送られるだけ」


「冷たい女」


「それって褒めてんの?」


「「褒めてねぇ」」


「フフ」


双子は玄関前まで送ってくれて二人で私の髪をクシャクシャに撫でると帰って行った


「・・・ムカつく双子」


腹立たしいはずなのに

だらしなく緩んだ頬に気付くのはシャワーを浴びようと鏡の前に立った時だった



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