十六夜月と美しい青色
 ペンションの部屋に着くと、手元の荷物を投げ出しベッドの上に倒れ込んだ。張り詰めていた気持ちが緩み大粒の涙が溢れ出して嗚咽が部屋中に響く。

 チェックインをしてる時、何時もと違う様子の結花に奥さんも気づいたようだが、何もなかったかのように接してくれた。それが、結花にはとてもありがたかった。

 しばらく泣いたあと、そのまま寝てしまっていたようで、気づくと、部屋の中は薄暗くなっていた。
 
 いつも、週末には凌駕のアパートへ泊まりに行っていた。この週末も、いつも通りに金曜日の夜にはアパートへ行くつもりだった。それが、木曜日の夜に凌駕から連絡があり、土曜日に親と一緒に藤沢の家に行くと言われ、金曜日は仕事が終わるとそのまま自宅に帰ってきていた。そして今朝まで、自宅で凌駕とご両親が来るのを待っていたのだ。

 電話では、いつもと変わらない様子で話していた。まさか別れ話になるとは思わず、結婚式の打ち合わせだと勝手に解釈して結花は両親に伝えていた。

 そして、その後はいつも通り…と思い、車の中には2日分くらいのお泊りセットを用意していた。だから、幸か不幸かここに宿泊する間の簡単な準備はできていた。

 窓の外に目をやると、そこはもう夜の帳が降りようとして、空には綺麗な月も見えていた。

 もうそんな時間なのかと、結花は手元の時計を見ると、午後6時を過ぎたところだった。怒りに任せて車を走らせたから、ランチも取っていなかったことを、今更ながらに思い出した。

 「お腹、空いたな…。」

 夕飯も、そろそろ食べれる時間だろう。おもむろにベッドから飛び起き、シャワーを浴びて身支度を整え、食堂へと足を運んだ。
< 6 / 46 >

この作品をシェア

pagetop