丸重城の人々~後編~

【響子の憂鬱】

ある日の仕事帰り。
響子と玄は、帰りのタクシーの窓から将大を見かける。仕事が終わるのが夜中なので、二人は一緒に帰るようにしているのだ。

響子「ん?将大?」
玄「どうしたの?将大だ。相手って、有馬組のお嬢だよ」
響子「知ってんの?」
玄「うん、尚生の客だから」
響子「そう……
━━━━━━え?何…あれ?」
有馬が将大に抱きついたのだ。
しかも将大は、それを拒むこともなく抱き締め返し頭を撫でていた。
玄「なんか……変なこと見ちゃったな……!」

響子の心に、モヤモヤが住みついた。

屋敷に帰りつき部屋に向かう。
玄「響子」
響子「何?」
玄「気にしない方がいいよ」
響子「は?」
玄「あのおっさんが浮気なんて“もう”ないはずだから!」
響子「わからないわよ!
将大は一度、私を裏切ったんだから!」
玄「わかってるよ。でも、俺は断言できるよ!」
響子「どうしてそんなことが言えるの?玄にはわからないでしょ?」
玄「俺も男だから」

響子「玄」
玄「ん?」
響子「アンタに、愛情なんてわかるの?」
玄「今はね」
響子「柚希のこと、本気なの?」
玄「じゃなきゃ、ここに引っ越したりしない」
響子「手に入らないわよ」
玄「わかってるよ。姫は絶対に手に入らない宝物だよ。
てか、俺の話はいいでしょ?
とにかく!将大はもう、響子を裏切らない!
じゃあね!」
そう言って、部屋に戻った玄だった。

響子も部屋に行こうとして、二階の大翔夫婦の部屋に目が行く。ドアが開いていて、中を覗いてしまう。
大翔「柚~好きぃ」
柚希「もうやだ、寝かせて…眠い……」
大翔「やだ!」
二人はまだ起きていて、大翔が柚希を組み敷いていた。

響子は二人に、言い様のない嫉妬心で埋もれていた。
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