丸重城の人々~後編~

【英里の恋】

ある日の早朝━━━━━━

広子「柚希ちゃん、郵便受け見に行ってくれる?」
柚希「はーい!」


柚希が郵便受けに出る。
中身を確認し、郵便物を抱えた。

「すみません」
突然、背後から男性の声が聞こえてきた。

柚希「ひっ!!?」
バッと振り向き、変な声を出し震え出す柚希。
抱えていた郵便物をバサバサと落とした。

「英里ちゃん、いますよね?」

柚希「え……」

「ここにいるはずなんだ」

柚希「………」
必死に考えを巡らせる。
英里は、誰にも告げずにここに来た。

てことは、誰にも知られない方がいいはずだ。

柚希「い、いません…」

「そんなわけ……頼みます!
会わせてください!
どうしても、英里ちゃんに会いたいんだ!」
今にも泣きそうな、男性。

男性の姿に心が動くが、英里は知られたくないかもしれない。
柚希「………いません!」

「………じゃあ…これ、渡してください…!」
男性は、財布の中から数枚の千円札を出し、コンビニのレシートの裏にサッとメッセージを書いて渡してきた。

男性が去っていき、柚希はペタンとその場にへたりこんだ。

震える手で郵便物を拾い、屋敷に戻る。

宗一郎「柚ちゃん!良かった!
広ちゃんが、帰ってこないって言ってたから。
…………柚ちゃん?どうしたの?」
柚希「………」
宗一郎の胸に額をコツンとつけた。

宗一郎「柚ちゃん。言って?どうした?」
柚希の状態に何かを察し、肩を持って言い聞かせる。

柚希「野良猫が、突然飛びかかってきたの。
びっくりしちゃって……」
宗一郎「………そう。それは怖かったよね。
大丈夫!」

明らかに違う。
でも、無理矢理聞くのも違う気がする。
宗一郎は、微笑み頭を撫でるのだった。



柚希は、英里の部屋に向かう。
千円札数枚と、コンビニのレシートを両手で包み込んでいる。

英里に、渡す気はなかった。
明らかに怪しい人を、大切な英里に会わせたくない。

しかし━━━━レシートに書かれたメッセージが見え、内容を見て柚希は英里に伝えたいと思ったのだ。

柚希「英里さん、おはよう!」
英里「あ、柚希!おはよう!」

デスクに向かい、仕事をしていた英里が振り返る。


柚希「英里さん、大切なお話があるの。
少しだけ、いい?」

柚希は、英里を見据えた。
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