丸重城の人々~後編~
柚希の雰囲気に、英里も見据えた。

柚希「これを…」

英里に千円札数枚と、レシートを渡す。
英里はそれを見て、目を見開きフリーズした。

【英里ちゃん。
今まで、たくさん傷つけてごめん。
今僕は、◯◯のコンビニでバイトしてるんだ。
もしよかったら、会いたい!
連絡ください。
スマホ、新たに買ったよ。
番号、書いておくね。
英里ちゃん、僕は英里ちゃんが大好きだよ!
0X0-XXXX-XXXX
音弥】


柚希「ほんとは、渡すつもりなかった。
ここに来た時に、恋愛はこりごりって言ってたでしょ?
でも、メッセージ、見えちゃったから……
英里さんに、渡した方がいいかなって思って……」

英里「そう…」

柚希「あの、音弥さんって……」

英里「元彼。ヒモ男で浮気性な、最低な奴。
しかも、私のお金でクラブに通ってたのよ!
まさか、響子のクラブだなんて思わなかったけど(笑)
でも………大好きだった…」

柚希「英里さん…」

英里「コンビニで働いてるなんて、どうしちゃったんだろ?(笑)
今までいくら私が泣いて訴えても、頑なに働かなかったのに……」

柚希「英里さん、会ってみたらどうかな?」

英里が、ゆっくり首を横に振る。

柚希「わからないけど、さっきの感じ……心から謝罪したかったように見えたよ?」

英里は、最後まで首を縦に振らなかった。



しかし英里は、ジッと音弥の書いたレシートを見ていた。

“会いたい”
“英里ちゃんが、大好きだよ!”
ゆっくり、音弥の文字をなぞる。

スマホを取りだし、音弥の番号をタップした。
通話ボタンを押そうとする。

━━━━━━……
ぶるぶると、首を横に振った。

あの地獄は、もうごめんだ……

定職にも就かず毎日好き勝手遊び、気が向いた時にしか帰ってこない。
いつもパチンコや競馬等に行く、最低クズ男。
(もちろん、金は“全て”英里の金)

浮気なんかしょっちゅうだった。
暴力をふるうことはなかったが、都合が悪くなると甘えるように許しを乞う。
そしてまた、英里の金で出掛けていく。

そんなクズ男。

それでも英里は、音弥が大好きだった━━━━━

最終的に響子のクラブのリンにのめり込み、英里の貯金にまで手を出したのだ。

それで、さすがの英里も耐えられなくなり黙って消えたのだ。
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