ずっと好きだった。

 初めて部屋に泊まってくれた夜、嬉しくて嬉しくて眠れなかった。
 二回目に泊まってくれた朝、この部屋の合鍵を渡すと、私の大好きな顔で笑ってくれたよね。

 最初の半年は毎日のように使ってくれた。
 だけど三年を過ぎた今は、ひと月以上使われないときもある。
 それは寂しくて、会社でも問い詰めたくなって、それでも鬱陶しく思われたくなくて、何でもないふりをするしかない。

 だって、そのうちまた頻繁に使ってくれるようになるもの。
 そのときは浮気相手と別れたとき。
 ほら、やっぱり私のところに戻ってきてくれた、ってほっとする。

 だから、もうそろそろ結婚を考えてくれてもいいんじゃないかな?
 こんなに理解ある彼女は他にいないと思うよ?
 もう十分遊んだでしょう?
 もうすぐあなたも30歳になるんだから、家庭を持つのもいいと思うの。
 そんなことを考えたりしないのかな。


「そういや、俺の同期も結婚するって言ってたな」

「え? 誰? 私の知ってる人?」

「さあ、知ってたらお前の耳にも入るだろ。知らねえってことは知らねえんだろ」

「……そっか」

「にしても、馬鹿だよな」

「何が?」

「まだ俺たち29だぜ? もっと遊べるのに、何でわざわざ結婚なんかするかなあ」

「……子供ができたとか?」

「そんなのどうとでもなるだろ? 何でそんなことで自由を奪われないといけないんだよ。俺、束縛が一番無理だから」


 肝が冷えた。
 妊娠について「どうとでもなる」なんて、どういう意味か確かめることも怖かった。


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