運命なんて信じない
「谷口美優さんのことはご存じですか?」

陸仁さんのコーヒーを口に運ぶ手が一瞬止まった。

「それは、谷口美優を個人的に知っているかって事?それとも、今話題になっている報道について知っているかって事?」
探るように訊く。

「後者です」

コトン。と、コーヒーカップを置いた陸仁さん。

「知っているよ。僕だって、新聞もネットも見るからね。で、それが?」

「今回のことは美優さんが私と賢介さんのことを誤解したのが原因なんです」

「誤解なの?」
なんだか冷たい声。

「ええ。私はただの居候ですから。でも、美優さんは信じてくれなくて、こんな騒ぎになってしまって」

「坊主憎けりゃ袈裟までって訳だ?」
「まあ、そういうことです」

「で、責任を感じている琴子ちゃんとしてはどうしたいの?」
「何とか解決したいんです」
「ふーん。でもなんで、賢介じゃなくて俺に言うの?」

あああ。
やはり、そう来たか。

「それは・・・陸仁さんの方が適任ではないかと・・・」

「はあ?どういう意味?」
陸仁さんが身を乗り出した。

「ですから・・・賢介さんは当事者ですし。これ以上騒ぎが大きくなるようなことは避けたいし・・・」

「賢介に火の粉がかかるようなことは困るけれど、俺ならいいと?」

「そんなつもりはありません!」
つい大声になってしまった。

チラチラと周りのお客さんを見る。

「ごめんなさい。本当にそんなつもりではないんです。ただ、デートDVの写真についても、異物混入についても、誰の仕業かはは大体分かっているのに、私や友人では調べられることに限界があって。陸仁さんならって、そう思っただけです」
ごめんなさい。と、頭を下げた。

「賢介には話した?」
「いいえ。関わるなって、止められているので」
「なら、なんで俺に相談しに来たの?賢介を怒らすと怖いよ」
「分かっています」

賢介さんにバレても、バレなくても、もう平石の家にはいられないと覚悟をしている。
この騒動さえ収まれば、私はまた元の生活に戻るつもりでいる。

「覚悟をしてるんだね」

「はい」
よそ見をせずに、真っ直ぐ陸仁さんの目を見て答えた。
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