運命なんて信じない
午後の仕事を無理矢理キャンセルして、俺はホテルに駆けつけた。

ラウンジの片隅に座る陸仁から、席に着いた途端に差し出された茶封筒。

「何?」
と尋ねた俺に陸仁はニヤリと笑った。

「琴子ちゃんに頼まれたものだ」

中を見ると、異物混入とDV騒動の証拠が入っている。
これを琴子が?
今回の件で、俺は表立っては動かないことにしていた。
俺が黙っていればいつかは収まる。
どんな悪い噂だって俺は平気だったし、ただ琴子も谷口美優も傷つけたくなかった。

「何で琴子がお前に?」
まず、それが疑問。

琴子と陸仁が知り合いだなんて知らなかったし、俺の知らないところでかかわっていたことになぜか腹が立つ。
しかし、陸仁はそんな俺の様子を気にとめる風もなく、

「琴子ちゃんは今回のことを自分の責任だと思ったんだ。だから、何でもするから調べてくれと言ってきた」
「何でもするって・・・」

開いた口がふさがらないとはこの事だ。
言葉の出てこない俺に、

「女は感情の生き物だよ。お前を愛しすぎた美優は手に入らないなら壊してしまいたいと思ったし、琴子ちゃんは自分を犠牲にしてでもお前を助けたいと考えた」
いかにも女性にもてる陸仁らしい台詞。

もちろん今回の谷口美優の行動には驚いているし腹も立っているが、そうさせてしまった発端は自分のような気がし黙認していた。
しかし、琴子がこんなに大胆な行動に出るとは・・・
これもまた俺の責任なのだろうか。
それからしばらく、陸仁と二人押し黙ったまま時間が過ぎた。
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