恋人ごっこ幸福論
「…集中してたからだよ」

「でも気配くらいしますよね」

「うっさいな、どうでもいいだろ」



突き放すようにそれだけ言ってまた動画に戻る彼は、何かを誤魔化しているようにも見える。

きつく当たられたってそんなことくらいでめげないのも分かっているはずなのに、それでもそう言うのはこれ以上探られたくない何かがあるからなのか。

だったら、今はそっとしておいた方がいいのかな。リュックからおにぎりを出して一応これだけ置いて戻ろうとしたとき。

丁度傍を他校のジャージを着た男子生徒が2人通り過ぎるのを目にする。あれ、あのジャージって。

ちらっと隣で橘先輩が見ている動画を盗み見る。ああそうだ、次の対戦相手校だ。やっぱり勉強してたんだなあと1人納得していると、彼の視線が通り過ぎて行った2人を追っているのに気づく。


そして、膝の上で握りしめられた右手が微かに震えていることにも。




「緊張…してる?」



つい口から思った事が零れてしまって慌てて両手で抑える。けど遅かった。

なぜなら隣の彼はまさに図星だと言わんばかりに動きを止めてしまったから。







「え!?橘せんぱ…本当に?」

「うっさいつってんだろ、だったら何」

「認めるんですね…」



こっちを振り向いてムキになる彼は不機嫌そうだけれど、むしろさっきの元気が無さそうな姿よりは安心する。

そうか、緊張してるのか。

でも意外だ、今まで試合なんて何度も経験してるから緊張するなんてばかばかしい、とか言いそうなのに。




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