恋人ごっこ幸福論
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「今日も卵焼き入れてきたんだ」
お昼休みの視聴覚室、今日は橘先輩と一緒に食べる日。
定位置になったのか、私の前の席に座ってお弁当箱を見る彼は、真っ先に卵焼きに目がいく。
「今日先輩と一緒に食べる約束してたから、つい」
「なんだそりゃ、今日も餌付けてくれんの」
冗談ぽく言いながら、今日も菓子パンの袋を開ける彼の目の前に、卵焼きを差し出す。
「リベンジ、です」
「え?」
「この前結局ちゃんとあーんできなかったから、今日はちゃんとします」
「……まじか」
唖然とする彼に、再度卵焼きを差し出す。
実をいうと、先日のお昼休みでの件をまだ引きずっていた。試合の日に、友人たちの前で実行する勇気はなかったから言わなかったし期間も結構空いてしまったけれど。
恥ずかしがって、何もできずにいるようじゃこのまま振り向いてもらう日はやってこないもの。攻めを実行する気合を入れる為にも、やらねばと思ったのだ。
「分かった。貰うよ」
「どどどうぞ!」
「ったく、大丈夫かよ」
はあ、とため息をつく彼の顔がそっと近づいてくる。
ドキドキして震えてしまう右手を左手でぎゅっと支えて彼の口許へ卵焼きを持っていくと、ぱくっとそれが口に入れられていく。
き、んちょうした…!もぐもぐしている彼を他所に、自分の心臓はバクバクとおかしいくらい音を立てている。
たったこれだけのことなのに、やっぱりこれって恋人同士って感じがして緊張する。