恋人ごっこ幸福論





「今日、来てくれて本当に助かった」

「え、そんなにお腹空いてますか?」

「違うわ」



急に言われたことに、理解が追い付かず問うとすぐに否定される。



「あのとき…緊張してた時。神山が気づいてくれなかったら、様子見に来てくれなかったら多分今日駄目だった。

だから………居てくれてありがとう」



思わず彼の顔を二度見してしまう。

さっきの私の行動が、彼にそんな風に思ってもらえてるなんて信じられなかったから。ただ私が貴方のことならなんでもしたいだけで、あんなの、ただの私の自分本位なお節介なのに。



「私は…本当に好きで、勝手にやってるだけなのに、」

「それでも助かったつってんだから素直に受け取っとけよ」


そう言う彼は、視線を合わせることはないけれど声は穏やかで優しかった。

私が彼にとって、何かプラスになれる存在であったんだ。

「居てくれてありがとう」なんて、むしろ私があの日の貴方に伝えたかったくらいだよ。

素っ気ない言い方だし、伝えるなら1回こっち見たらいいのにとかきっと友人2人は言うだろうけど。私には、自分なりに伝えてきた思いが少し報われた気がして、なんだか胸が温かくなった。



「神山って本当一生懸命で、いつも全力で空回りしてるけどなんやかんや良い奴だなって思うよ」

「それって…褒めてます?」

「褒めてるけど?」

「…あっさり肯定されるとなんか恥ずかしいですね」



空になったお弁当箱を片づけた後も、ゆっくりこうして話しているのが自然なくらい、進展していると言えるのなら私にしては頑張っているのだと思う。…ありがたいことに好意的に見てくれていることは分かったし。



「まあ神山のいう好きが原動力はなんとなく分かったよ」

「よかった!かなり身をもって証明してますからね」

「ふふ、っ…そう、だな」

「ちょ、思い出し笑いやめてください!」



だから、貴方がいつか自分の好きに気づくまで。

それまでに、少しでもこっちを見てくれる回数を増やせたらと思うんだ。



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