恋人ごっこ幸福論





3階の文房具店に到着すると、迷うことなくB5のルーズリーフを手にする彼を見ながら何か良い案はないのか、と考えるけれど案の定何も思いつかなかった。



「神山買う物あるって言ってなかったっけ?」

「あ、そうだった」

「時間まだあるから探してこいよ。会計してくるから」

「分かりました~」



橘先輩がレジに向かっている間に、自分の買う物を探す。

付箋と蛍光マーカー買っておこう、普段使っている物を選んで私も会計しようとレジの方へ行こうとしたとき。

文房具店の通路を挟んだ隣にあるコーヒーチェーン店にふと目が留まる。店内は電車待ちだろうか、学生の姿が多いようで参考書を真剣に見ている人もいる。

ここもいつもの倍以上に混雑しているのか、なんてぼんやり思っていたけれど必死に試験勉強に取り組む様子を見ているとあ、とひらめく。



「おい、俺終わったけどまだか…ってもう選んでんじゃん」

「!橘先輩、聞いてください」

「なんだよ、先に会計しろよ」

「今から行きます。それより、一緒に勉強会しませんか」

「勉強会?」



ちらっとコーヒーチェーン店に視線を移すと、無理だという表情をする彼。



「あ、今日じゃなくて次の土日とか…一緒に勉強するのっていいなあ、と今お店見てたら思ったので」



慌てて断られる前にそう補足すると、手を合わせて懇願する。

駄目かな、一緒に勉強会とかすれば何か意識してもらえるきっかけも出来るかもしれないと思ったのだけれど。

…とはいえ、試験勉強第一なので「それじゃ集中出来ない」なんて言われたら諦めるしかないけど。





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