恋人ごっこ幸福論
「わ、凄い人…」
高校の最寄り駅まで着くと、普段の倍以上の学生と帰宅者で溢れ返っていた。
駅に来るまでに見かけた路線バスの人も凄かったけどそれ以上だ。
「この近辺学校多いし天気悪いからな」
「それにしてもですよ。入学してから雨の日あったけどここまででは…」
「試験は大抵日程被るから」
さらに中学生なら中間試験はないとこあるけど期末試験ないとこはないだろ、と付け加える橘先輩の話を聞いて納得がいく。
さすがここら辺でも有数の学園都市、条件が重なるとここまで恐ろしいとは。英美里ちゃんがイライラしていた訳もよく分かる気がする。この様子だと電車が来ても乗れる気しないもん。
「さて、じゃあ俺は文具屋でも行くかな」
「電車待たないんですか?」
「まだ暫くは人多いから乗れねえよ。ルーズリーフ切らしてるから買い物して時間潰すんだよ」
なるほど、確かにここで待ち続けても次の便には乗れそうにないし大分ずらした方がいいのか。
この光景は慣れっこなのか、最初からそのつもりだったと言わんばかりの彼に関心する。
「で、神山は来ないの」
「も、勿論行きます!丁度買いたい物もあったし…」
「ん、じゃ駅ビル行くか」
やった、思ってたよりも長く一緒に居られそう。
この天気と試験前という状況による災難がむしろ素敵なチャンスをもたらしてくれて、初めて梅雨に感謝する。
駅ビルのエスカレーターで彼の後ろに乗ってるだけでも表情筋が緩んでしまいそうなくらい嬉しい…って、また私が喜ばされてる。
橘先輩に良い反応させたいのに、彼にされる行動ならなんでも私が喜んでしまうから難しい。というか私がちょろすぎる。