恋人ごっこ幸福論
……でも、私はそうではないから。
「…やっぱり、駄目」
「駄目?」
「まだ帰るの駄目です。…まだ橘先輩と手繋げてないから」
じっと彼を見上げて、情けなくも結局彼に自分の要望を伝えてしまった。
さり気なく、自然に手を繋いでドキドキさせたかった。いつもよりも積極的な私で、橘先輩に意識してもらいたかった。
でもやっぱり私には、そんな方法は無理みたい。
正直にアプローチして、失敗してもめげずに向かう方法が結局私にできるやり方なんだ。
今日も全然橘先輩をドキドキさせられなかったし、彼の思うツボだったのかもしれない。1日でも早く好きになってもらいたいと思っているけれど、私は今のペースで攻めるしかないんだ。
だってこれでも少しは進歩してるんだもん、焦ったってしょうがないのかもしれない。
「…今日ずっと手繋ごうとしてたんだ」
「はい。ほとんど頭の中でぐるぐるしてただけですけど」
「そっか、神山らしいな」
ああ、ほら笑われてる。頭の中で1人ぐるぐるして、勝手に空回りしてただけの私をいつものように面白そうに笑ってる。
やっぱりドキドキさせられない、仕方ないけどそんなに笑わなくたっていいのに。もうやけくそになってしまいそうだ。