恋人ごっこ幸福論
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「もう終わりだって」
「あ…あっという間でしたね」
その後も2人で色々な魚や水で暮らす生き物の展示を巡って、出入り口まで帰ってきた。
橘先輩をドキドキさせられなかった、ただ楽しむだけ楽しんで私が1人意識しているだけの1日。
「ドキドキさせてみて」って言われたのに、結局上手くいかなかった。
出る前になんとか手を繋ぐだけでもして帰らなきゃ、隣を歩く彼の手をそっと掴もうとタイミングを見計らった時。
「どうする?もう出るけど」
「あ……」
橘先輩がこちらに顔を向けてきて、つい繋ごうとした手を引っ込めてしまった。
「はい。充分観て満足したので…大丈夫です」
「分かった。じゃ帰るか」
「はい…」
駄目だった。最後のチャンスすら掴めなかった。本当に、今日何やってるんだろう。
モヤモヤすっきりしない感情と、どうにもできない自分の不甲斐なさでいっぱいになる。
「…神山?」
歩く速度の落ちた私に気づいて、橘先輩が振り返ってくれる。
私はこんなにも貴方の行動や言動に一喜一憂しているのに。貴方はそんな私に少しくらい何か思ってくれないのかな。
私がもっと綺麗なら、
私がもっと積極的にアプローチ出来たら、
簡単に私にドキドキしてくれたかもしれないのに。