恋人ごっこ幸福論
「やっと見つけた」
玲央ちゃんの腕を掴んで引き離そうとする橘先輩が、気がつけば目の前に居て。
なんでここに、と聞いてしまいそうになったけど口を噤む。首筋に汗をつたらせ、肩で息をきらす姿を見て私を探してくれていたんだっていうことはすぐに分かったから。
「先輩、部活は…?今終わる頃じゃ」
「ちょっと早めに抜けてきたんだよ。誰かさんと連絡つかないから」
あ、とその時スマホに何度もメッセージや不在着信が来ているのに気づく。
英美里ちゃんと紗英ちゃんからも来てる、そっか、急に連れていかれたからずっと心配してくれてたんだ。
「あの2人神山が金髪バカに無理矢理連行されたって大騒ぎしてたぞ。ちゃんとスマホくらい見ろ」
「すみません…2人にもちゃんと連絡します…」
「何も無いなら全然いいけど、……何やってんだよお前」
そのまま視線を玲央ちゃんに移す橘先輩がぐっと玲央ちゃんの腕を掴む力を強めると、玲央ちゃんは舌打ちして私の手を離した。
「俺に乗り換えねえか提案してんだよ。そっちこそ俺と緋那のデート邪魔すんじゃねえ」
堂々とそう答える玲央ちゃんに橘先輩が溜息をついた。
「嫌がられてるしそもそも脅して連れて来てんだから邪魔も何もねえだろ。神山、帰ろう」
「は、はい 」
助かった、この流れで帰っちゃおう。立ち上がると玲央ちゃんから庇うようにしてくれる。
「おい待て」
「玲央ちゃん私本当にそろそろ帰らなきゃいけないから……私は橘先輩と帰るよ」
「…わかったよ。ありがとな放課後付き合ってくれて」
「う、うん。お祖父ちゃんの仕事の為だし…」