恋人ごっこ幸福論
***
「映画ちゃんと楽しめた?」
「はい。面白かったです」
と言いつつざっくりしか観れてないけど。
隣でドキドキしてそれどころじゃなかった。これでもいつも先輩のことを見続けているのだから、分かりにくいタイプとはいえ変化にはすぐ気づく。
なんなの急に、なんでこんなにときめかせてくるの。
「ん、どうかした」
「なんでもないですよ~…」
「?そう」
本人はさっきと違って今は特に何も変わりないしいつも通りだ。結局なんだかんだ私はいつも振り回されているな、と思う。
「で、次行くとこどこだっけ?」
「…えーっと、多分この辺なんですけど」
そんなことよりも次の目的地を探さなくちゃ、と頭を切り替える。私が行ってみたかったアイス屋さんに付き合ってくれることになっていたのだ。
「あ、ここですここ」
「ここか。…思ってたより並んでんな」
「わ、本当ですね」
店の前にざっと20人程は並んでいる行列。一応今夏休みだもんね、この暑さだとこうなっても仕方ない。
日陰が無い通りに一瞬躊躇しつつ、とりあえず並んでみる。が、想定よりも全然進まない。
私が来たいって言ったから、この暑い中一緒に並ばせてなんだか申し訳ないな。
そう思った時、車線を挟んで向かいに建つコンビニが目に付く。入口上に掲示されたひんやりスイーツフェアの広告が、暑い中並んでいる今誘惑でしかない。
これ以上見ない方がいいな、そう思った時ふと橘先輩と目が合う。同じように広告に目を奪われていたのだろう、何も言わなくても考えが通じたようだった。