恋人ごっこ幸福論






「下っ手クソだな」

「…これでも真面目にやっているんです」


そんなことをしていると、登校してきた橘先輩が、必死にゴールへ入れようとしている私に呆れつつ近づいてきた。ぎこちなくボールを構える私の様子を見ていられなかったようだ。


「ほら膝曲げて、右足出す、ボールここ、あとはゴール見て、前に出すように投げる!」

「え?えっと、こう?」


慌てて言われた通りにしてゴールへ向かって投げる。しかしボールはゴールに届くことなく。宙を舞った後、重力に負けて床へ転がっていった。


「あれ?」

「まじか、本当に下手くそじゃん」

「いや、そんなはずは…」


もう一度ボールを手にして狙うけれど、やっぱり入らない。…こんなに運動神経悪かったっけ、私。


「…ちゃんとゴール狙ってる?」

「狙っていますよ!あ、あの四角目指したら入りやすいですよね」

「そうだけど別に諦めてもいいんじゃない」

「や、やだ!」

「じゃ、入れてみれば」


挑発するように言われると、ついムキになってしまう。絶対入れるんだ、ゴールを目指してボールを投げるけど、何度やっても入らない。





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