恋人ごっこ幸福論





「まだ入んねえじゃん」

「た、たまたまだもん」

「俺も練習したいから早くしてほしいんだけど」

「つ、次できめるので」


さっき教えられた体制をしっかり整えて、今度はさっきより集中する。よし、いくぞ…いくぞ。勢いよくボールを投げると、今度は綺麗にボールゴールへ向かっていく。


「!あ、」


けれどあと少しという所で、投げたボールがゴールの縁に思い切り当たってバウンドする。ああ…外した、と思ったときには遅かった。目の前には跳ね返ってきたボールがあって。


「…おい、大丈夫か」

「…痛い」


気がついたときには綺麗にボールを顔面キャッチしていて、その衝撃で地面に尻餅をついていた。


「ったく、早くやめればよかったのに」

「だ、だって…」

「怪我は?」

「わ…っ」


額を摩っていると、ひょい、と橘先輩が私の顔を覗き込んでくる。

ち、近い。大好きな彼の顔が、目の前にある。今恥ずかしいところ見られてるのに違う意味でもドキドキするなんて。そう思うのに無意識にドキドキしてしまう。


「そんな恥ずかしがらなくてもいいだろ。顔面キャッチくらいたまにはあるんじゃね」

「違う」

「え?」

「橘先輩にこんな近くで見られたら、駄目なんです」


私がそう言うと少し吃驚したように目を見開いてすぐに視線を逸らす。





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