恋人ごっこ幸福論
入学して再会した時は、駅で会った時より素っ気なくて冷たいし思ってた人とは違うんじゃないかって思ったりもした。それでも日々気付く新たな一面は、貴方を嫌いになるどころか益々好きになるものでしかなかった。
毎日気付くその1つ1つの出来事が、好きっていう気持ちに積み重ねって今の気持ちになったのに。勘違いなんかじゃない、これだけははっきり言いきれる。
「私はそんな橘先輩が好きなんです。だから私の気持ち信じてください」
はっきりそう言い切ると彼は微かに目を瞬かせる。想定外の答えだったのか、動揺しているようで。
「…理解できないな」
「でも、好きってそういうものでしょ?」
「いや知らねえわ」
「あ…」
私の返事を待たずして彼はそのままふいっと背を向けて、練習を始めた。
伝わって、ないのかな。私なりに自分の気持ちを証明したけれど、それでも理解してもらえなかったのだろうか。それともいきなりこんなこと聞いてくるから面倒くさくなったとか?
気のせいだろうか、さっきから一度もこっちを見ない彼を見ているとそうなのではないかという気がしてくる。
彼の態度は元々分かりにくいのだからあまり気にしても仕方ないのは分かっているけれど、懸命に訴えた自分の気持ちを認めてすらもらえなかったのは少し悲しかった。
その後も、ただずっと彼が練習している姿をいつものように見つめていたけれど目が合うこともなく。時間が来てしまうと、声をかける間もなく先に行ってしまった。