恋人ごっこ幸福論
「まあひぃちゃんなりに何かあるんでしょうけど…特別何かしなくても、時間が解決してくれることだってあるから。今は忘れて、いつも通りバスケ部見学行きましょ」
「英美里ちゃん」
「ほら、人の気持ちって、変わるから」
「緋那ちゃんらしく頑張ったらいいんだよ。大丈夫」
「紗英ちゃんまで…2人ともありがとう」
2人の優しい励ましの言葉を聞くと、少しだけ気分が晴れやかになった。そうやって気遣ってくれる心遣いが素直に嬉しい。
「さ、もたついてたらあっという間に時間過ぎるし体育館行くわよ!」
「勿論!」
英美里ちゃんに急かされて3人で体育館へ向かう。体育館に来ると、今日も見学中の女子生徒達が黄色い声を上げていた。
「今日もすっごいな」
「いつものことじゃない。まあ私は可愛いアイドルの男の子見る方がいいけど」
「この人らや緋那ちゃんには橘先輩がアイドルよりいいんだからしゃーない」
「好みって人それぞれよねえ」
2人の会話を傍で聞きながら、人と人の合間からなんとか彼を探し出して必死に目で追う。
彼に自分の気持ちを否定されて寂しく思っても、ここに来るとやっぱり自然と探してしまう。どうしても、好き。何があっても好きなことに変わらないこの気持ちを証明するには、何をしたらいいんだろう。
会いに来るだけならここに居る人達と何も違わない、だから自分なりに少しでも親しくなろうとしていたつもりだった。でもただのつもりにしかなっていなかったのかもしれない。