恋人ごっこ幸福論
…そう思っていたのだが。
「あ、ストーカーちゃん来たよ」
「さっすが。毎日必ず来てるよね」
その日から、バスケ部を見に行くと必ずある2人の先輩女子から“ストーカーちゃん”と呼ばれてからかわれるようになった。
毎回あえて橘先輩が練習中で近くにいない時にだけ、話すところから悪い意味なんだろう。
からかうことの何がそんなに楽しいのかは分からない、でもこの前のことがきっかけで目を付けられたんだろうということだけは確かだった。
「…緋那ちゃん、あの人達にやめてもらうよう言った方がいいんじゃない?」
「別にいいよ。気にするのも面倒だし無視しよう」
「そう言って毎日あれじゃない!いい加減無視するだけじゃ駄目よ。ムカつくもん」
紗英ちゃんは私の言葉に納得していないような、複雑な表情をしているし、英美里ちゃんは自分のことのように苛立っていて今すぐにでも彼女達に抗議しに行きそうだ。
「うーん、そんなに困ってないし。大丈夫だよ」
「ひぃちゃん!」
「緋那ちゃん…」
心配そうに私を見る2人に笑って安心させようとしていると、背後から視線を感じる。
「ストーカーちゃんのくせにいい子ぶらなくていいじゃない?」
「ね、わざと聞こえるように言ってるんだから抗議すりゃいいのに」
振り返ると、その先輩女子2人が小馬鹿にしたように私を見下ろしていた。