恋人ごっこ幸福論
相手にしないから、どうやらわざわざそちらから直接話しかけてきたみたいだ。なんか、嫌な予感する。余計に反応する方が後々大変なことになると思ってたから無視してたんだけどな。
こうなると、嫌でも相手にしないわけにはいかなくなる。
「…なんで急に、私のことストーカーって呼ぶようになったんですか?」
「偶然見ちゃったんだよねえ、あんた橘くんが朝1人で練習してるとこにまで通ってるんでしょ。なんか噂で橘くんが朝早く来てるらしいとは聞いたことあったけどそこにまで顔出すなんて、ねえ」
「ストーカーちゃんって呼びたくなるよねえ。いくらなんでも気持ち悪いもん」
お互いに顔を見合わせて同調し合う2人を見て、なんとなく理解する。
そうか、私が朝練に通って彼と接点を作ろうとしている上に、この前彼が私に返事したから。だからそう呼んで私をからかってきてるんだ。
彼女たちが彼に向けている好意は私と同じ意味のものなのかは分からない。でもこうやって見に来るくらい好きなのだから、私が気に入らないのは当然だ。
「そうですね。確かに朝練まで見に行こうなんてストーカーって言われても仕方ないかも」
実際、そう言われても反論しようがないことは理解している。自分でも正直どうなのだろうと思っているけれど、それでも通っているのだから。