恋人ごっこ幸福論
「…橘先輩のこと、悪く言うのやめてください」
気がついた時には、自然と口を開いていた。
時と場合によってそうやって簡単に態度を変えてしまうのが、どうしても許せなかった。私の好きな人のことを悪く言われるのをこのまま黙って見過ごせなかった。
ひたすらに彼の悪口を語り合う先輩女子に向かって強く要求すると、蔑むような目で睨まれる。
「…ストーカーちゃんのくせに庇う気?でも事実でしょ、うちらとアンタの何が違うのよ。悪いのは差別する橘くんじゃん」
「橘先輩が貴女達に冷たく言ってるときは、周りに迷惑かけてる時だけですよ。それに私だって普通に素っ気なくされてるし先輩は差別なんてしてないです」
「うちらがいつ迷惑かけてんのよ?ただ応援しに来てるだけでアンタと何も変わんないじゃん!」
「そうよ!適当なこと言って調子乗んなよ!」
「!ひぃちゃん」
「緋那ちゃん!」
一瞬にして先輩女子の1人にぐいっと腕を掴まれると、体育館の中へ連れ込まれる。
ちょっと、近い。部活中のバスケコートに近すぎじゃない!?体育館の隅の方ならまだしも大胆にコート付近まで引っ張られる。
「!ちょっ…いきなり危ないですよ!せめて何かする気なら他の場所で」
「?言い訳しないでくんない!」
「言い訳じゃなくて…練習中だか」
必死に逃れようと、掴まれた腕を離そうとしていた時「危ない!」と言う声が聞こえる。
ふと左を見た瞬間、自分に向かってバスケットボールが飛んでくるのが見えた。これ、すごく既視感がある。でも今度は勢いが…でも、もう避けれない。
ぐっと咄嗟に目を閉じて直撃に覚悟を決めた。