恋人ごっこ幸福論
「…っ、!」
バン!という大きな音がして、体育館の中がしんとする。けれど、この前のような衝撃はなく。
「…ギリギリ、」
「橘、先輩」
目を開けると、橘先輩が間一髪のところでボールを受け止めてくれていたようだった。
「…だから邪魔っつってんだろうがいつも」
「っ、う…」
先輩女子に向かって見たことないくらい冷めた目を向ける彼は、完全に怒っている。
まあ…今までのもそう見えなくはなかったけれど、今回のは違う。本気だ。
「大丈夫!?誰も怪我してない?」
「菅原先輩、」
菅原先輩をはじめバスケ部の人がぞろぞろと心配して集まって来る。
「怪我?指攣ったわ」
「あっちゃ~やっぱりな~。緋那ちゃんは?どこも痛くない?」
「私は庇ってもらったので大丈夫です」
「そっか、よかったよかった」
へらっと安心したように笑う菅原先輩の隣で、痛いとか言いながら他の部員と話す橘先輩の方を見る。私のせいだ、面倒にならないようにするつもりだったのに。まさか、橘先輩に怪我までさせてしまうなんて。
「…ごめんなさい」
弱々しく、謝罪の言葉を口にすると俯く。申し訳なさ過ぎて顔見られない。もしかしたら私出入り禁止かもしれない…。びくびくとどんな制裁を受けるのか待っていると溜息を吐く音がして、こつんと軽く頭を叩かれる。