恋人ごっこ幸福論
「じゃあ…練習もっと頑張らなきゃなんですね」
話を聞くと、簡単に大丈夫とかは言えない。むしろもっと鼓舞するくらいの言葉を返すのがベストだと思った。
「ま、そういうこと」
きっと間違ってなかったんだろう、短く、でもしっかり答える彼は、勝つ気に溢れているように見える。
「でも頑張り過ぎて無理しないでくださいね」
「初心者じゃねえんだから分かってる。体調管理も万全でいくつもり」
「うん、やっぱりさすがです」
「普通だって」
また似たようなやりとりをして、思わずふふ、と笑みが漏れる。
「私も、お弁当喜んでもらえるように頑張りますね」
「はいはい、頼んだよ」
「今から何作ろうかすごく考えてるんです。試合前だから脂っこいものは避けたいし、エネルギー源になるのが良いのかなあとか」
「…そんなことまで考えなくても作りやすいので大丈夫だけど」
「ううん、駄目です」
きっぱりと彼の言葉にそう言い切って首を振る。
「せっかく橘先輩が万全の状態で臨もうとしてるんだもん、私が作ったものでコンディション悪くなるなんてことがあってはいけないので。私も全力でメニュー考えます」
好きな人だから作ってあげたい、できたら喜んでほしいっていう下心があるのは事実だけど。
それよりも何よりも、少しでも支えてあげることができたら、力になれたらっていう気持ちの方が強い。だから私も彼に恥じないよう手を抜かずに作りたいのだ。