恋人ごっこ幸福論




「丁度終わったっぽいね」

「じゃあもうちょっとしたら来るわね」



それから5分後くらいに、体育館の中から一斉に大勢の人が流れ出てくる。

先程対戦していたのであろう高校の制服を着た生徒たちや、試合を観戦していた各高校のジャージを着たバスケ部生たちの中から、必死に見知った姿を探す。



「あ、あれうちの高校の集団じゃない!」



英美里ちゃんが指差す方向を見てみれば、黒ジャージを着た集団の中に大好きな彼の姿を見つける。



「あ!おっつかれー!」



こちらが呼びかけるよりも先に、菅原先輩が声を上げて立ち止まった。



「もう来てたんだ」

「お疲れ様です…!」



その声によってこっちに気づいた橘先輩の傍へ駆け寄っていくと、同時に彼が鞄からスマホを取り出してあ、と呟く。



「悪い、見てなかったわ」

「結局会えたから大丈夫です、ラッキーですね」

「この混みようならそうだな」



と、私の荷物に目を向ける橘先輩。



「それ…まさか弁当?」

「え?そうですけど…」

「なんかでかくない?何人分あるの」

「あ、実はみんなで食べようと思って!菅原先輩がお昼抜けれそうだからせっかくなら一緒に食べようって言ってくれてたので」

「まあ俺も弁当食べたかっただけなんだけどね~」



両手で抱えていたアウトドア用クーラーバッグ。つい張り切り過ぎてしまって、軽くパーティーでも開けそうな量になってしまった。

あはは、と明るく笑ってなぜか照れ臭そうにする菅原先輩とは反対に、橘先輩は特に関心もなさそうに「そうなんだ」とだけ呟いた。あれ、もしかして嫌だったかな?




< 98 / 304 >

この作品をシェア

pagetop