私は醜い裏切り者


その後、どうやって過ごしたのか覚えていない。





どうしてだろうな?悲しいような、でもどうしようもないような。




本当は、元彼と一緒にいたい。でも、それができないから、梓くんで我慢するしかない。





でも、梓くんとは話が合わない。人として、人間として。人を見下すとんでもない化け物。





「わたし……どうしたらいいの」






このチャンスを逃したら一生ひとりぼっちになってしまうような……そんな気がして、だから梓くんに頼って。






でもこんなの悪いに決まってる。相手は、人を見下す最低な魔物。いつか、神様からバチが当たるそんな感じがする。






そう考えたら、目から涙が出てきた。





こんなに溢れ出たことは、今まででない。こんなに、悩んで苦しむのは、いつぶりだろうか。





胸が苦しい。息ができない。






私は激しく嗚咽を鳴らして、泣いていた。





気がついて泣きながら周りを見ると、緑のしげる学校の裏庭だった。




私は、この裏庭で一番大きな木下に座り込み、気持ちを落ち着かせようとする。





だけど、落ち着こうとすればするほど、涙が溢れて、一向に涙がひかない。






嗚咽が止まらず、ついには周りの気配まで気付かなかったのだろう。





必死に泣いていたとき、右の肩から軽くぽんっと、手が置かれる感触がした。





私は、ビクッと肩を震わせた。





ーーいけない、泣いてるところを見られたら、きっと笑われちゃう!!





息を吸って、ゆっくりと振り向くと……。





「お嬢さん、大丈夫ですか?」





そこに立っていたのは、春なのに麦わら帽子を被った、おじさま……と言えばいいのか。




年老いた、タキシードが似合いそうな年配の男性がいた。





「……ご、ごめんなさい。掃除の邪魔でしたね」





男性の灰色のツナギと、箒を見てこの人は清掃員の人だと判断した。




私は急いで、別の場所に移動しようとしたら。




「いえいえ、お気になさらずに。人前でそんな顔で歩いたら、ここの男子達は何を言ってくるか分かりませんからね。涙が引くまで、ここでゆっくりとしていってくださいな」





おじさま、年配の男性は、そういうと、私の人となりに座った。




木の幹はゴツゴツしていて、とても座りにくい。





だけど、どこかその痛さが心地よくて、私の心が少しほぐれていくような気がした。




「……僕も」





おじさまが、口を開いた。それはゆっくりとした口調で、落ち着いた口調で……。





「僕も、嫌な事があるとこの幹の下に来ることがあるんですよ。どうしてですかね……特別なパワーでもあるんですかね」




「嫌な……事?」




こんな、紳士そうな……年の割には年老いているけれど女性にはモテそう。そんな人が嫌な事があるのか。


「あの……あなたは?」




私は恐る恐る、おじさまに尋ねる。


「僕は、この学校の事務員で、陣内 大和(じんない やまと)と言います。もしよろしければ、大和さんと呼んでいただけたら光栄です」




おじさま、大和さんはこちらを見て微笑んだ。




「僕もね……最近、妻と別れまして、しょっちゅうこの幹の下に来るんです。毎日が窮屈で……あ、こんな話嫌でしたか?」





「……いえ、大丈夫です」




私はこの人の事をこの時、少し知りたいと思ったんだ。




この人なら何か、何かを知っているって。





「……その、良ければ何ですけど、別れた原因って?」





大和さんは笑って言った。





「価値観の違いと……そうですね、人があまり良くなかった……と言えばわかりますかね」



どこか遠い目をしている大和さん。



「……そのまま、付き合おうとは思わなかったんですか?」




ひとりぼっちになるくらいなら、一人よりも二人の方が断然にいい。




私はひとりぼっちになってそう一層感じるようになっていた事に今頃気づいた。




女子のグループから、陰口を叩かれることもない。




余計な恋愛で苦しむ事もない。偽りの友達、恋人を作ってしまえば、その苦しみから逃れる事が出来るからだ。




だがーー大和さんは違った。






「いいえ、付き合いませんでしたよ。悪い人と分かっていた上で私も付き合っていました。……だけど、だけど、やはり悪い人は悪い人です。自分を傷つけて、最後は命を絶ってしまおうとするぐらい追い込まれただけだったので」





大和さんは何かを悟ったように、息を吐いて吸った。




「悪い人間と分かっているのなら……別れるべきだと、離れるべきだと思います。その近くにずっといるといつかは壊れて、自分自身も人の事を考えられなくなってしまう……。それより、そうなってしまうより、一人でいた方がマシだと、僕は考えます」





いつしか、その話は「奥さん」は「梓くん」になって、「大和さん」は「私」になっていた。





「……でも、一人になった途端にどうしようもない悩みが襲ってくるより、大勢の人が……たとえ、悪い人でも、一緒にいた方が考えずに済みますよね?」







「そうかもしれません。でもその代償に、「人の心」は捨てなければいけませんよ」





「……どうして?」




「その人達と、同じ意見に同情しなければいけませんからね。たとえ自分が嫌でも、相手から嫌な事をさせられるかもしれない」





「……じゃあ、どうしたらいいの? 自分の身を守る為に、嫌な事から守る為に、梓くんと付き合うって言ったのに」





相変わらず、私は馬鹿だ。




嫌な事から目を背ける? 自分を守る?ただ逃げているだけだろ?




そんな心の声が聞こえて、また涙が滲む。





しばらくの沈黙が流れた後。大和さんは何も言わずに私を見捨てなかった。




そして、大和さんは口を開いた。




「それなら……それなら、私が話し相手になってあげます」




ピタッと涙が止まった。





「あなたは……一人じゃありません。きっと分かってくれる人がいます。人生はずっと不幸って訳ではありません。一人って訳ではありません。友達ができるまで、僕があなたの話し相手になってあげます」




大和さんはまた、優しく微笑み私の手を握った。そして、なにかを握らされた。





「これは、僕の電話番号を書いた紙です。辛い時は、気軽に電話してください」




そう言って、大和さんは何処かへ行ってしまった。




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