【コミカライズ】黒騎士様から全力で溺愛されていますが、すごもり聖女は今日も引きこもりたい!
 風向きが怪しくなってきた。夜風に髪をなびかせながら「どういう意味なの」と問いかけると、ノアは懐かしそうな目でキルケゴールのたてがみを撫でた。

「男所帯でくらす騎士候補はみな、愛に飢えていたのです。町中ですてきな女性を見つけても貧しい懐具合では声もかけられないと嘆いていました。金貨がなくて好きな相手が結婚するのを指をくわえて見ていた同期もいました。愛こそ、この世で一番得がたいものでしょう。金貨はそれすら手に入れられるのです」

「それ、ものすごく極端な例よ。ゆっくり時間をかけたり、優しい関係を育んだりする、無償の愛もあると思うわ」
「どちらも愛なら、有償で手に入れた方が早くて確実では?」
「そうなんだけど~!」

 ルルはじれったくなって地団駄を踏んでしまった。
 有償の愛よりは無償の愛に憧れてしまうのが人間というもの。決してルルが夢見がちなのではなく、ノアが即物的すぎるのだ。

「分かったわよ。さいわい金貨はいっぱいあるから、課金でも何でもしてこの国を守るわ。お兄様が見つかるまでだけど、立派な王位継承者のふりをしてみせる」
「そのまま聖王になられたらよいのでは?」
「それは無理」

 すげなく言うと、ノアは少しだけ不満そうな顔をした。
 ルルはそれに気づかない顔をして、キルケゴールのたてがみを指で梳いたのだった。
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