【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
 ……。
 …………。
 …………はい!?

 美波の思考は数秒、フリーズのち、心臓が止まりそうなほどどきっと鳴った。
 彼女!?
 誰の、いや、そんなのもちろん、北斗の……。
 顔が、かっと熱くなってくる。どくどくと心臓もうるさく打つ。
 だが、そんな美波を見て、北斗は顔をしかめた。
「……彼女、って、撮影のための『彼女役』だぞ」

 ……。
 …………。
 …………えっ。

 美波はまた数秒、フリーズすることになる。
 次には、違う意味で、かぁっと顔が熱くなった。
 撮影のため、というのはよくわからないが、『役』と言われたのはわかった。
 つまり、本当の彼女というわけではなかったのだ。
 なのに自分はそういう意味に取ってしまって、おまけに恥ずかしくなってしまって。
 そのことに違う種類の恥ずかしさが襲ってきた。
「そ、それなら、最初からそう言ってよ!」
 それをごまかすように言っていた。無駄に声を張り上げてしまったくらいだ。
 美波の反論に、北斗はあきれたような顔をする。
 爆弾を落としておいて、と美波は憎らしく思った。
「そう言ったじゃないか。『今度』って」
 そう言われてしまえば、美波はこれ以上言い返せなかった。
 確かに、告白だとしたら、単純に「俺の彼女になってくれ」だけだろう。
 最初からそうだったのだ。
 誤解をしてしまったのは自分なのだ。
 いたたまれない気持ちになった美波を、再び見つめて、北斗はぼそりと言った。
「ま、役じゃなくてもいいけど……」
 でもその声は、混乱と恥ずかしさの中にいる美波にははっきり届かなかった。
 ただ、補足なのだろうとか聞こえなかった。
 美波がそれをちゃんと聞き取れなかったのはわかったのだろう。北斗は空気を変えるように、はぁっとため息を吐き出した。
「ここだとおばさんたちが帰ってくるかもしれないから、部屋に行くか」
 美波を促して、ソファから立ち上がってしまう。さっさとドアに向かうので、美波はあたふたと立ち上がった。
 彼女役というのはいったいなんなのだろう。
 でもそれ以上に、美波が戸惑ったのは、自分のことについて。
 北斗の「彼女になってくれ」と言った言葉に、これほど胸がドキドキしてしまったうえに、顔がかっかと熱くなってしまって、仕方のないことであった。
< 26 / 85 >

この作品をシェア

pagetop