【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
 美波は目を丸くしてしまう。
 後ろ姿だけ。
 顔は写らないという。
 それなら、モデルとしてポーズをつけたり、微笑んだりといった、北斗がいつもしているようなことよりはずいぶんラクそうである。
 後押しするように、北斗は言った。
「後ろ姿だけだし、制服とか服も、事務所とかで用意する。だから、読者にお前だってことはわからない。……手伝ってくれないか?」
 彼女役、という言葉の意味を、美波はやっと、すべて理解した。
 おおごと、ではあるけれど。
 北斗は本当に困っているのだ。
 多分、ほかの女子モデルの子も、スケジュールなどがあるのだろう。急に新しい撮影などを入れられない事情もあるのかもしれない。
 聖羅にやっかまれる以外にも、きっと代役を立てるというのは難しいのだろう。
 それなら、北斗の力になれるなら……。
 美波の心が前向きになったのを感じたのだろう。
 不意に北斗が手を伸ばしてきた。スカートの上に戻してきた、美波の手をきゅっと握ってくる。
 美波の手が、北斗のあたたかな手に包み込まれた。
 美波の胸が、どくん、と跳ねた。まるで喉の奥まで跳ね上がったようだった。
 顔まで、かぁっと熱くなる。
 手に触れられるなんて、どのくらい久しぶりか。
 しかも中学生になってなんて。普通はするだろうか。
 でも北斗の手は優しく、美波をうながすように、きゅっと力を優しく込めるのだった。
「な、頼むよ」
 ずるいよ、と美波は思った。
 北斗にこんなふうに、必死に頼まれたら断るなんて。
 ごく、ともう一度、つばを飲んだ。何故か渇いてきてしまった喉で、なんとか言葉を出す。
「う、うん……、あの、お母さんに言ってみて、いいって言われてからで良かったら……」
 それは少し逃げるようなものだったかもしれないけれど、自分はまだ中学生。
 いくら幼なじみの北斗が一緒だと言っても、お母さんに言わずに決めてしまうなんて、ダメだろう。
 よってそう言ったのだけど、北斗の手は、ふっと緩んだ。
「それでいいよ。おばさんならきっと、いいって言ってくれるだろうし」
 それで北斗の手は離れてしまったのだけど、美波がほっとできたのは一瞬だけだった。
 北斗の手。今度は上のほうへやってきたのだから。
 頬にやわらかなものが触れる。
 それはあたたかくて、そして優しかった。
 思わずそちらを見ると、北斗と視線が合ってしまう。
 その目はなんだか優しくて。美波をじっと見つめていて。
 手を握られたときの比ではなかった。
 かぁぁっと頬が燃えるように熱くなる。
 そんな美波の頬を優しく撫でて、そっと包んで、北斗は言ってくれた。
「それにお前、多分、自分で思ってるより、かわいいんだぜ」
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