【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
 美波は目を丸くした。
 付き合う?
 こっそり?
 そんなことがあるはずはない。
 美波のその反応が、あずみに対する、すべての答えになったようだ。
 すなわち『それは間違いだ』という答え。
 それはともかく、美波の心臓は急にどくっと高鳴ってしまった。美波はそれに自分で戸惑う。
 付き合っているはずはない。
 けれど。
 そういうふうに、見えていた、のだろうか?
 知ってしまった途端、どきどきしてきてたまらなく、胸まで苦しくなってくる。
「そ、そんなこと、ないよ」
 はっとして、やっと言った。
 ちゃんと返事をしないと。言ってほしいと言ったのだから。
 美波のその動揺は、『本当のことを言いあてられたから』だとは思われなかったようだ。
 あずみは美波のことをよく知っている。
 甘いミルクティーが好きなことも。
 膝裏にほくろがあるなんてことも。
 だから、嘘をついたときの様子だって、わからないはずがないのだ。
「そうだよね。流石に美波はそんなことを隠しておく子じゃないって思ってて。だから言わなかったんだけど」
 あずみはそう言ってくれた。
 信じてくれていたのだ。
 胸がドキドキするのは別として、美波は、ほっとした。
 同時に胸が痛む。
 あずみは北斗のファンで。
 北斗のことが好きで。
 一緒に住んでいるのは知らなかったにしろ、近くにいるとは察されていたのだ。
 その状態では、『美波と付き合っている』と疑ってしまっても、なにもおかしくないだろうに。
 美波を、信じてくれていた。
 それで言わないでいてくれた。
 嬉しいと思うし、ありがとうとも思うけれど、そう思うのは苦しかっただろうに、と思ってしまう。
「……ありがとう」
 美波は、やっと言った。声は小さくなってしまったけれど。
 それで隠し事はなくなった。
 話も終わった。
 ちょうどよく、とばかりにチャイムの音が聞こえてくる。
 昼休みは終わってしまった。お弁当はひとくちも食べていないのに。
「あ、昼休み終わっちゃう。ごめん、お弁当、食べられなくて」
 あずみはチャイムの鳴ってくるほうを見上げてから、美波に視線を戻して、謝ってくれた。すまなさそうな顔で。
 でも美波はそんなこと、ちっともかまわなかったのだ。
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