【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
「ううん。お弁当より大事なことだったから」
「そう? ありがとう」
 美波がすぐ答えたことに、あずみはやはりすまなさそうではあったけれど、そう言ってくれた。
 お弁当は食べられなかったけれど、昼休みは終わってしまったのだから、教室に戻らなくては。
 美波とあずみはベンチを立ち上がった。
 裏庭を歩いて、校舎へ向かいながらあずみがふと言った。
「でも、本当に付き合うことになったら教えてね」
 言われたこと。
 一瞬、よくわからなかった。
 本当に……付き合うことに……。
 数秒、考えてしまったくらいだ。
 その美波の様子を見て、あずみは笑った。くすくすっと。
「え、な、なに、それ!? それはないよ! だって、……」
 あわてて反論しかけたのだけど、『だって』。
 そのあと、なにが言いたかったのか、美波はわからなくなってしまった。
 『だって』に続くのは、付き合うことにならない『理由』だろう。
 でもそれがすぐ出てこなかったのだ。
 美波は口をつぐんでしまう。
 なんで出てこないのか。頭にも思い浮かばない。
 ただ、顔は熱くなってきた。
 付き合う。
 さっき、あずみに『付き合ってると思ってた』と言われたときも感じた、胸のどきどきする感覚が復活してきてしまう。
「美波はもっと自覚したほうがいいよ」
 けれどそこで昇降口に着いてしまって、あずみはそれだけ言って、話を「次の国語だけど……」なんて、普通のものにしてしまった。
 美波はそれについていくしかない。
 どこかふわふわしながら教室に戻って、午後一番の授業、国語がはじまっても、落ち着けなかった。
 仲直りできて嬉しいと思ったのに。
 それが片付いたら、また困ったことになってしまった。
 北斗と付き合っているはずはない。
 けれど、少なくともあずみ、親しい友達からはそう見えてしまうことがあったようだし、おまけに言われた『自覚したほうがいい』。
 自覚する……。
 いったい、なにを?
 わからないような、本当はわかっているような。
 美波が首をひねる間に、午後の授業はゆっくりと過ぎていった。
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