【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
キスはビターなチョコレート
「……そうか。良かった」
 その夜、美波は北斗にあずみとのことを報告した。
 助けてもらった……あずみに話をしてもらったことへのお礼も言った。
 北斗はそれを全部聞いてくれて、ほっとしたようにため息をついてくれた。
 今日は美波の部屋で、ソファに二人で座って北斗は話を聞いていたところだ。
「本当にありがとう。色々、すっきりしたと思う」
「そうだな、隠し事っていうのはあまり気持ちいいもんじゃないしな」
 美波が北斗にお礼として買ってきたチョコレートの箱。
 北斗はひとつぶ取って、口に運んだ。
 それを見て、美波は微笑んでしまう。
 何種類か入っているチョコレートの中で、北斗は一番ビターなものを選んだものだから。
 多分それが好きだろうな、と思って、カカオの濃いチョコレートが入っているものを買ってきたのだ。
「でも、あずみがなんか変なこと、……っ!」
 言いかけて、美波は思わず口をつぐんだ。
 うっかり話の流れで口に出しかけてしまったけれど、変なこと、とはつまり、北斗と付き合っていると誤解されたこと……。
 そんなことを本人の前で言いかけてしまうなんて。顔が熱くなってきてしまう。
「ん? 変なことってなんだよ?」
 北斗は何気なくだろう、チョコレートをほおばりながら、もごもごと言った。
「う、ううん、なんでもないよ!」
 美波はあわててごまかすことになる。
 結局、午後ずっと考えてしまうことになったけれど、わからなかったのだ。
 あずみが『付き合っているのではないか』と思うくらい、仲が良さそうに見えたのは、きっと事実だ。
 それは確かにそうだと思う。
 学校でも会ったり話したりする機会が少しはあったし、話題に出すことも多かった。
 だからそう思われてしまってもおかしくはないかもしれないけれど。
 それよりもっとわからなかったのは、あずみに言われたそれ。
 誤解である、それ。
 ほかの男の子だったら「そんなこと、ないない!」なんて笑いながらすぐに答えたのではないだろうか?
 そして「そんなふうに見られたくなかった」と思ったのではないだろうか?
 でも美波はそう思うどころか、胸がドキドキしてしまったし、なんだか騒ぐように感じてしまった。
 それはなんだか、「嫌ではなかった」ということのような気がして。
 嫌ではなかったなら、つまり自分は北斗のことを……。
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