元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 いつもこんなふうに投げつけられる侮辱を受け入れていた。勇者に選ばれた妹とそうでなかった兄。人がそれをなんと言い続けていたのか知っている。

 ゆっくりと息を吸い、吐き出す。そうすれば胸の内にくすぶる寂しさも悲しい思いも、すべて忘れられた。

 顔を上げ、儚い笑みを口元に浮かべる。

「だからこそ、お兄様がいてよかったです。この国を治めるべき次代の王として、誰よりもふさわしい方ですから」

 嫌な沈黙が下りた。その理由はよくわかっている。

(また、嫌味だと思っているんでしょうね。本心から言っているのに)

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