元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 空気のように見守っていたレレンも、なにも言わず黙っていた。この場を凍り付かせるような風が吹き抜けたあと、不意に足音が近付いてくる。

「姫様、姫様はいらっしゃいますか?」

 息を切らして駆け寄ってきたのは、城に勤めるメイドだ。

 平常時であれば、訓練の最中なのにと苦い顔をするティアリーゼも、今ばかりはありがたいと思わずにいられない。

(お兄様には悪いけど、助かったわ。このまま気まずいのは嫌だもの)

 その気持ちを自分の中に押し込み、なにもなかったふうを装ってメイドに話しかける。

「なにかあったの?」

「国王陛下がお呼びです。すぐ王の間に来るように、と……」

「わかったわ」

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