元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 なんの用事だろうと考える間もなく、持っていた剣をレレンに渡す。

「お父様のところに行ってくるわ。これ、しまっておいてくれる?」

「他人に剣を預けるなと言いたいところですが、今回は仕方がないですね」

「よろしくね。お兄様も鍛錬に付き合ってくれてありが――」

 兄に礼を言おうとしたが、そこに人の姿はない。どうやら、早々に立ち去ったようだ。

 ティアリーゼに剣で敗北し、気に入らなかったというのはあるだろう。それ以上に、国王が呼んだ相手が妹だけだったというのが、彼のプライドを傷付けていた。

 決して歩み寄ろうとしてくれない兄の心を思い、胸を手で押さえる。

< 16 / 484 >

この作品をシェア

pagetop