元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
(私はお兄様の方がこの国にとって大切だと思う)

 兄はこの本心を決して認めようとしない。憎しみにも近い感情をぶつけては、ティアリーゼに傷を付けて背を向ける。

 なぜ、そんな兄を必要だと信じているのか。

 それは自身が姫と呼ばれながらも、そのように求められていないのを知っているからだ。

 必要とされているのは魔王を倒し、人間の手に大陸を取り戻す勇者としての自分。王族だろうとなんだろうと関係ない。

 今まで、ティアリーゼとして求められたことが何度あっただろうか。

 そう考えてすぐに嫌な思いを振り払う。今は余計なことに意識を奪われている場合ではなかった。



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