元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 王の間と呼ばれる広間にはタルツ王が座していた。ほかに人の姿はなく、よほど重要な話があるのだろうと察せられる。

(……ついに旅立つ日が来るのかしら)

 そんな期待と不安を胸に、父の前に膝をつく。

「ティアリーゼ、参りました。お話というのは……?」

「実はな。また亜人によってひとつ村が滅んだという情報が入った」

「また……!」

 ぎり、と唇を噛み、ティアリーゼは手を握り締める。

 父にこんな話をされるのは初めてではない。そのたびに焼け付くような思いで身を焦がされた。

 一方のタルツ王は疲れた様子で溜息を吐く。

< 18 / 484 >

この作品をシェア

pagetop