元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 また、ティアリーゼはシュクルの好きなところをひとつ見つけてしまう。

(思っていたよりずっと、この人のことが好きなのかもしれない……)

 気付いてしまえばもう後は早い。

 なにも難しいことを考える必要などなかったのだ。

 魔王だの勇者だの、人間と亜人の繋がりだの、そんな義務感からシュクルの側にいなくてもいい。

 ――好きだから。

 たったひとつの思いがティアリーゼの背中を押してくれる。

「したいことがある」

 呟くように言ったシュクルがティアリーゼに顔を寄せた。

「なに?」

「うまく言えない」

 近付いてくる端正な顔を、ティアリーゼは最後まで直視できなかった。

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