元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「……キスよ」

「わからない」

「わからなくても終わったものは終わったの。……これでもういいわよね?」

「……ティアリーゼ」

 熱くなる顔を見られないよう、離れようとしたのに再び名を呼ばれる。

 それどころか、シュクルはティアリーゼの腰に腕を回し、抱き寄せた。

「人間はこうするものなのか」

「――っ、ん」

 シュクルはまったく予想していなかった行動に出た。

 ティアリーゼに唇を重ねたのだ。それも、ほんの少し触れるだけではなく、しっかりとぬくもりを感じるまで。

「んん、ん」

 くぐもった声が唇の合間から漏れた。

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